前年度に引き続いて、放射線医学総合研究所HIMAC中エネルギー照射室で我々が開発したイオン照射系を用いて、ブラッグピーク近傍のHe、C、Ar、Fe、Xeイオンの照射実験を行った。6MeV/nのイオンを金属薄膜を通して大気中に引き出し、空気を減速剤として利用し、電離箱までの距離を変えてブラッグ曲線を測定した。このブラッグ曲線に沿ていろいろな位置でイオンを照射して、イオン固有DNA損傷の特徴の解明を目指した。粒子線束の絶対値はCR39法で決定して、作用断面積を求めた。(1)乾燥DNA:He、C、Ar、Fe、Xeイオンの照射実験を行った。作用断面積はイオンが重くなるのに従って大きくなった。ブラッグ曲線に沿っての断面積の変化は、Heを除いてほぼ同じであり、1本鎖切断(ssb)の作用断面積はブラッグピークまでほぼ一定で、ピークを越えると急激に減少した。2本鎖切断(dsb)の作用断面積はピークまで増加し、ピークを越えると減少した。dsb/ssb比は、ピークを越えると急激に増加し1を越え、最大値は1.4となった。つまり、dsbがssbよりも多く誘発されるというこれまでにない現象を見出した。(2)水溶液DNA:DNA試料を厚さ10μmという極めて薄いアガロースゲルに含ませるという新しい試料作成法を開発し、Cイオンの照射を行った。基本的には乾燥DNAと同じ傾向を示し、dsb/ssb比の最大値は2.0となった。(3)乾燥T1ファージの致死:C、Ar、Xeイオンの照射実験を行った。作用断面積はピークに向けて単調に減少した。LET-RBE関係とすると、もっとも高いLET(8783keV/μm、Xe)でRBEが0.036であった。
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