研究課題/領域番号 |
11680559
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研究機関 | 神戸学院大学 |
研究代表者 |
五島 喜與太 神戸学院大学, 人文学部, 教授 (90111822)
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研究分担者 |
岡本 正志 神戸学院大学, 薬学部, 助教授 (80194398)
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キーワード | ベンゼンヘキサクロリド / 環境汚染物質 / 培養心筋細胞 / ミトコンドリア / 呼吸酵素 / ATP / 細胞内カルシウム |
研究概要 |
環境汚染物質のベンゼンヘキサクロリドによる心筋細胞毒性の誘発機構を明らかにする目的で、本年度はδ-異性体の心筋細胞への毒性作用を検討した。 40μMδ-ベンゼンヘキサクロリドを培養心筋細胞に添加すると、30分後には拍動の停止とともに、位相差顕微鏡下で細胞内に特徴的な空胞が認められた。このような空胞の形成はα-、β-、γ-異性体では観察されなかった。また、δ-異性体によって観察された空胞は蛍光色素rhodamine123の染色と透過型電子顕微鏡の観察から、膨潤化したミトコンドリアであることを明らかにした。さらにδ-異性体によって誘発された膨潤化ミトコンドリアには、クリステの一部、またはすべてが完全に崩壊された像が確認された。 一方、δ-異性体によってミトコンドリア異常が観察された時には、培養心筋細胞内のATPレベルとF_1F_0-ATPase活性が低下していた。さらにδ-異性体によって心筋細胞の拍動が停止した時、細胞内の遊離カルシウムレベルは変化が認められなかったが、ミトコンドリアの形態や機能に異常が認められた時には、そのカルシウムレベルは顕著に上昇していた。なお、δ-異性体は培養細胞ばかりではなく、単離ウシ心筋ミトコンドリアにも影響を及ぼし、ミトコンドリア呼吸酵素系のNADH-oxidase活性を阻害し、なかでも呼吸鎖のComplex Iを特異的に阻害することをユビキノンの酸化/還元比より認めた。 これらの結果は、環境汚染物質のベンゼンヘキサクロリドはその異性体によって心筋細胞への毒性作用が明らかに異なることを認めた。つまり、前年度の報告のように、γ-異性体は心筋細胞間のギャップ結合を介した細胞間コミニュケーションに作用し毒性作用を誘発するのに対して、δ-異性体は心筋ミトコンドリアの形態ならびに機能障害を誘発することによってその毒性を誘発することを明らかにした。さらにその成因には、心筋細胞内のカルシウム濃度の変化が密接に関連していることが示唆された。
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