急性毒性をおこさない1mg/kg/dayの用量のカドミウム(Cd)を慢性毒性を生じない日数投与したところ、蓄積したCdは肝臓には86%、腎臓には13%、精巣には0.2%分布した。また、赤血球、血漿および尿中のCd濃度も臓器蓄積量に応じて増加し、そのうち、赤血球Cd濃度が最も高い正の相関を示した。そのCd蓄積マウスに炎症等の生体内環境に変化を与える薬物を投与したところ、蓄積Cd濃度は、肝障害惹起物質投与により肝臓で減少し、腎臓で増加した。また、腎障害惹起物質投与では肝臓では変化はなく、腎臓Cd濃度の有意な減少が認められた。その際、Cd濃度は赤血球では変化がなく、血漿では顕著な増加が認められ、さらに血漿メタロチオネイン(MT)濃度も有意に増加した。このように慢性毒性を発現するCd蓄積量でなくても、肝臓毒等の複合汚染によって臓器蓄積Cdの再分布がおこり、それが腎障害を起こしたり、その発現を早める可能性のあることを示唆し、Cd再分布の指標として血漿MT濃度が有効であることが明らかになった。さらに、Cd蓄積マウスに無機水銀やラジカル生成物質の投与するとCdがMTから遊離すること、また、初代培養肝細胞を用いた実験ではCdの蓄積量が多いほど無機水銀による毒性の感受性が高くなったことから、MTと結合することによって無毒化されて蓄積したCdもMTに対する親和性の高い重金属やMTのthiol基を酸化するprooxidantの複合汚染によって遊離し、再び毒性を発現する可能性があることが示唆された。したがって、蓄積Cdは通常毒性は発現しなくても、生体内環境が変化すれば毒性を再び発現する可能性があり、蓄積Cdのリスク指標として、赤血球Cd濃度だけでなく、血漿MT濃度が有効であると考えられる。
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