昨年度は、繊維状粒子状物質を貧食した肺胞マクロファージに特異的に発現する遺伝子としてkrox20/egr-2をクローニングした。本年度はkrox20/egr-2の遺伝子発現をマーカーとして、アスベストや都市大気中の粒子状物質の毒性評価を試みるとともに、krox20/egr-2遺伝子の5'上流域の解析を行った。 都市大気中の粒子状物質は東京の都心部で電気集塵器を用いて捕集された粒子成分を、アスベストはUICCの標準試料であるクロシドライトを用いた。 微小酸化チタン粒子は生体との反応性が低い物質として知られているが、繊維状の酸化チタンはマクロファージにおいて強くkrox20/egr-2を発現させる。アスベストは繊維状粒子状物質の中でも最も毒性が高いことが知られているが、krox20/egr-2の発現量は繊維状酸化チタン粒子に比べて低い値を示した。このことはkrox20/egr-2の発現は、必ずしも粒子の毒性に基づくものではないことを示している。 また、都市大気中の粒子状物質を貧食したマクロファージにおいては、対照値より高いkrox20/egr-2の発現量がみられたが、アスベストや繊維状の酸化チタンを貧食したマクロファージに比べ低値を示した。RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)法を用いてkrox20/egr-2の5'上流域を詳しく調べたところ、この遺伝子には少なくても2種類のものが存在することが明らかとなり、ジーンバンクに登録を行った。
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