マクロファージが微細球形粒子と繊維状粒子を貧食したときに、異なる発現が見られる遺伝子を同定し、粒子状物質の吸入毒性発現機序を解明することを目的とした。 SDラットから得た肺胞マクロファージを前培養した後、最終濃度が100μg/mlとなるように微細球形酸化チタン(S-TiO2)あるいは、繊維状酸化チタン(F-TiO2)を加えさらに3時間培養した。 トリゾールを用いて肺胞マクロファージより全RNAを抽出し、^<33>Pを用いたディファレンシャルーディスプレイを行い、F-TiO2を暴露した肺胞マクロファージに特に強く発現するmRNAを調べた。TAクローニングとDNAシークスエンスの結果により、繊維状粒子状物質を貧食した肺胞マクロファージに特異的に発現する遺伝子としてkrox20/egr-2を同定した。 ノーザンハイブリダイゼーション法を用いて、F-TiO2の貧食に伴いkrox-20/egr-2の遺伝子発現が上昇することを確認した。 また、都市大気中の粒子状物質を貧食したマクロファージでは、対照値より高いkrox20/egr-2の発現量がみられたが、アスベストや繊維状の酸化チタンに比べ低値を示した。RACE(Rapid Amplification of cDNA Ends)法を用いてkrox20/egr-2の5'上流域を詳しく調べたところ、この遺伝子には少なくても2種類のものが存在することが明らかとなり、ジーンバンクに登録を行った。 krox20/egr-2の遺伝子発現は、チロシンリン酸化酵素であるSykキナーゼの阻害剤であるピセタノールの添加によりほぼ完全に抑制されたことにより、krox20/egr-2の発現上昇の機構として、タンパクリン酸化反応が関与している可能性を示した。
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