本年度は昨年度以前に産業廃棄物を対象とした最終処分場の立地計画地周辺の地域住民に対して行った質問紙調査の結果を様々な角度から分析し、地域住民がリスクを伴う施設立地に対して抱く意識や行動の特性を把握することを試みた。地域住民の決定参加としての住民投票システムは廃棄物問題や自治意識の喚起に一定の効果をもたらしている一方で、立地計画に対して判断を下すのに十分な情報が提供されているとはいえない側面がみられる。海外の事例を踏まえると、こうした点を改善するためにはこれまで一般に実施されてきた多人数を対象とした大会場型のコミュニケーション手法を再検討する必要が示唆される。この内容については、リスク分析学会(The Society for Risk Analysis)の年次学会で発表した。 一方、最終年度に構築することを目指している施設立地の意思決定システムにおいては事業者と地域住民との十分なコミュニケーションが不可欠である。しかしながら、現時点では施設立地をめぐるコミュニケーションが実現している事例は極めて少なく、仮に行われていたとしても意思の伝達や情報の交流と呼べるものは少ない。そこで、既に実施されているコミュニケーション事例として化学工場を取り上げ、関係主体へのヒアリングを中心とした調査に基づいて、コミュニケーションの成果と課題を整理した。その結果、従来から実施している地域貢献活動や地域の代表を対象とした交流活動を通じて工場の活動に対する地域住民の信頼が醸成されつつある一方で、環境リスクに関する情報の非公表、住民間で異なる認識への未対応、コミュニケーションを円滑に進めるためのファシリテーターの確保などが課題としてあげられることを示した。この内容の一部は、リスク研究学会の年次大会で発表した。
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