下水処理水中には生物分解されにくいさまざまな有機物が残存している。それらの組成や起源をあきらかにすることは、下水処理場から排出される有機物負荷を削減するために有効である。本研究は、特に、下水処理水中に含まれる活性汚泥中微生物由来の有機物について基礎的な検討を行ったものである。 研究の前半では、実験室内において人工下水を用いて活性汚泥プロセスを運転し、水理学的滞留時間が処理水中の溶存有機物濃度に及ぼす影響について検討を行った。処理水中に存在する溶存有機化合物について、ジクロロメタンを用いた液液抽出を行い濃縮した後、ガスクロマトグラフ・質量分析法により一斉分離・同定を試みた。50種以上の化合物が同定された。検出された化合物の種類や量は同じ系列でも試料採取日により異なっていた。検出された化合物の多くは脂肪酸であり、また、安息香酸やアニリンの誘導体、イソシアン酸フェニル誘導体、フタル酸ジアルキルエステルといった芳香族環をもつ化合物も検出された。 研究の後半においては、実験室内において有機酸のみを有機成分として含む人工下水を用いて活性汚泥プロセスを運転し、処理水の有機成分組成について特にタンパク質と糖類に焦点を絞って検討した。流入水中の有機物は完全に処理され、処理された有機物の8.6%に相当する有機物が活性汚泥中微生物により生産された。処理水中のDOCのうち、タンパク質は22%、糖類は46%をしめた。処理水中のDOCは日によって変化したが、糖類の変動はその変化ともっとも高い相関を示した。実際の下水処理水中有機成分の半分弱は活性汚泥に由来することになるとの結果となった。
|