ヤマトシジミのへい死のメカニズムを明らかにする目的で、本研究においてはヤマトシジミの生息環境が健康状態に与える影響とその評価法について検討した。平成11年度は、ヤマトシジミの生息密度を1000個体/m^2〜4000個体/m^2に段階的に設定したコンテナに入れ、島根県大橋川(宍道湖)において飼育実験を行った。その結果、密度の高いコンテナ(3000個体/m^2・4000個体/m^2)において(1)へい死率の上昇(2)ろ過速度の低下(3)無酸素耐性の低下、がみられた。また、8月末に高密度のコンテナでへい死のおこった時期には、ヤマトシジミにろ過速度の低下・無酸素耐性の低下・軟体部重量の急激な減少が起こっていたことなどが明らかとなった。平成12年度は前年度の結果を受け、ろ過速度・無酸素耐性・肥満度を用いてヤマトシジミの健康指標値の確立を目標として研究を行った。島根県神西湖畔に建設した人工湿地のヤマトシジミを用いて、一年間を通じた生息環境と健康状態の把握を行った。その結果、(1)肥満度は初夏から秋にかけて大きく減少、(2)ろ過速度は初夏と秋に高く、盛夏はやや低く、冬季に大きく低下することなどがわかった。無酸素耐性は実験期間を通じてほとんど変化がなかった。人工湿地内においては餌料量の低下、一時的貧酸素化などの環境悪化があったにもかかわらず、ヤマトシジミは大量へい死をおこすことなく、おおむね健康な状態を保っていたと判断された。更に、環境悪化によってへい死をおこす場合におけるろ過速度および肥満度の変化を測定するため、1)無酸素状態で飼育した場合、2)無給餌状態で長期飼育した場合を設定し、飼育実験を行った。その結果、肥満度の一日当たり3%以上の急速な減少、およびろ過速度の0.1L/個体・hr未満へ低下が同時に起こった場合にヤマトシジミが大量へい死をおこす状態にあることが明らかとなった。
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