研究概要 |
珪藻は単細胞性の藻類として、干潟をはじめ様々な水域に生息し、微妙な環境の違いによって生息する種類が異なるため、環境指標としてきわめて有用である。珪藻はまた細胞が珪酸質の殻で被われているので、細胞の死後も殻が遺骸として堆積物中にしばしば保存される。このことから、地球科学の分野では、地層を構成する堆積物中より珪藻殻を抽出し、堆積物がたまった当時の古環境を復元するのに利用されてきた。すなわち、珪藻は環境指標生物として、現在だけでなく有史以前の環境を知る手がかりをも与えてくれる。 日本各地の沿岸において、珪藻Pseudopodosira kosugiiは縄文海進時の潮間帯堆積物中に豊富に出現する。しかし、現存干潟における本種の出現は、千葉県小櫃川河口で確認されているにすぎない。ここでの出現状況は、縄文時代の自然の干潟環境を知るためのよい窓口となる。小櫃川河口における本種の現生分布から、縄文干潟では前浜から潮間帯上部の塩性湿地への移行帯が、干潟システムの重要な要素であったとことが示された。瀬戸内海の兵庫県沿岸域などでは、埋立化により本種の生息場所は完全に失われたと考えられる。このように、本種は沿岸域エコトーンの良い環境指標であることが明らかとなった。 一方、干潟を特徴づける珪藻は過去の海水準認定の良い指標となる。これを用いて、西神戸および岡山平野において、完新世における相対海面高度の観測値を得た。西神戸地域では、この観測値と海水準変動の地球物理学モデルとの比較から、局地的な地殻変動量の定量評価を試みた(Sato et al.,2001)。このような地域ごとの地盤変位の定量化は、将来の海面上昇に各沿岸域がどのように応答するかを評価するうえで、重要な資料となる。
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