本研究の目的は、これまで環境バイオテクノロジーの基本概念として提案されたことがなかった微生物が持つ環境浄化遺伝子の自然伝播系を活用する工学技術の基礎を確立することである。また、環境において生物を育種するための技術体系を開発することである。このために、実際に自然界においてなされている環境浄化遺伝子の自然伝播の経路および媒体について科学的な解明を行うとともに、環境浄化微生物の環境内育種のための遺伝的形質の自然伝播の促進手法を研究期間内に明らかにすることを目的とした。 本研究では以下の研究成果を得た。 (1)既に分離した嫌気性水銀耐性細菌においても新たに分離できた好気性水銀耐性細菌においても、水銀耐性遺伝子オペロンはクラスIIトランスポゾン上にコードされていることを明らかにできた。 (2)上記トランスポゾンは分離できた何れの水銀耐性細菌においても染色体上に存在することを明らかにした。また、このトランスポゾンの内部には細菌型イントロンがコードされており、遺伝子の広範囲な伝播に何らかの関与をしていることが示唆された。 (3)プラスミドによる接合伝達性、既知のトランスポゾンとの関連性、および新規な接合性トランスポゾン(conjugative transposon)を含む可能性などを明らかにするために、水銀耐性オペロンを含む被伝達領域のDNAの塩基配列を決定した。 (4)水銀耐性オペロンがクラスIIトランスポゾンを介して自然界でどのようにして他種の細菌に伝播されるかについて、水銀耐性遺伝子を持たない複数の細菌保存株との組み合わせによるメーティング実験系および細菌イントロンのスプライシングおよびホーミングに関する実験系を確立した。本研究で確立できた実験系は実際の耐性遺伝子の伝播のメカニズムを解明するための研究に役立てることが可能であると考えられる。
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