研究概要 |
本研究では、光合成細菌の光収穫系タンパク質およびそれと類似した諸種のアミノ酸組成をもつ疎水性ポリペプチドを用いてクロロフィル(BChlaおよびZn-Bchla)およびポルフィリン色素誘導体の組織化を行い、光合成でのアンテナ色素複合体と類似した複合体の構築を行った。はじめに、光合成細菌から単離したLH1アンテナ系タンパク質複合体を用いて直線二色性(LD)スペクトル測定の検討を行った。その結果、LH1アンテナ系タンパク質複合体中でのBChla分子のQy帯は光合成膜に平行であり、BChla間のエネルギー伝達はアンテナ系タンパク質複合体のBChlaの単一な電子状態によって起こることが認められた。つぎに、複合体の形成におよぼす光収穫系タンパク質の疎水性コアの極性アミノ酸組成の影響について合成したモデルポリペプチドを用いて検討を行った。その結果、N末端測の親水性部位のアミノ酸残基を切断した合成ポリペプチドを用いて検討を行った結果、LHタンパク質のN末端側の親水性アミノ酸残基は、その組織化にそれほど大きな役割を担っていないことがわかった。また、その組織化にはLHタンパク質での疎水性コア中のヒスチジン残基、ならびにC末端側の親水性部位のトリプトファン残基(W)が重要な役割をしていることが認められた。また,それらの複合体の脂質二分子膜中への導入を試みた結果、脂質二分子膜中でアンテナ色素複合体と類似した色素複合体を組織化できることが認められた。 これらの検討から、光合成膜のアンテナ複合体中でのBChla誘導体の配向状態およびその配向要因について知見を得ることができた。特に、アンテナ系タンパク質によるBChlaの配向規制には、そのタンパク質の疎水性コア中のHis残基へのBChla中心金属の軸配位、ならびにC-末端側親水性部位の極性残基とBChla骨格上の官能基との水素結合が重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、この知見をもとにアンテナ系タンパク質モデルを用いてBChla誘導体を組織化できることが認められ、アンテナ色素複合体を人工的に構築できることが期待された。
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