研究概要 |
繊毛虫Blepharisma japonicumには接合型細胞I,IIが存在し、貧栄養状態になるとそれぞれの細胞が接合誘導物質ガモン1,2を放出し、相補的細胞に作用することでI型とII型細胞が接合し有性生殖過程に入る。接合型細胞Iが放出するガモン1(ブレファルモン)は糖タンパク質であることが分かっていたが、その詳細な構造に関しては未解明であった。 今回新たにガモン1を単離し、その全アミノ酸配列を決定した。すなわち、接合型I細胞を飢餓状態にしてガモン1を培地に放出させて得たCFF(Cell-free fluid)から、コンカナバリンAへの親和性クロマトグラフィー、ついでnative-PAGE電気泳動を利用する新しい単離法を考案しガモン1を精製した。SDS-PAGE電気泳動で30kDaに相当するバンドに強い接合誘導活性がみられ、その活性分画を酵素処理して得たペプチド断片から部分アミノ酸配列を決定した。接合型I細胞を合成で得たガモン2(ブレファリズモン)で刺激した後、その細胞からmRNAを単離し、部分アミノ酸配列の情報をもとにRACE法を用いてガモン1のcDNAクローニングを行った。そのcDNA塩基配列からガモン1の全アミノ酸配列が決定でき、分子量が30kDaであることが明らかになった。以前、ガモン1の分子量はゲルクロマトグラフィーから20kDaと推定されたが、その時の電気泳動実験からは30kDaの分子量が示唆されていたこと、および今回決定されたアミノ酸配列のアミノ酸組成が以前に推定されたアミノ酸組成のちょうど1.5倍と一致することから、共に同じガモン1であると結論づけた。以前、糖組成はグルコサミン3、マンノース3と考えられていて、当初、糖鎖構造を(GlcNAc β1->2Man α1->3),(Manα1->6)Man β1->4GlcNAc β1->4GlcNAc β1->Asnと推定していたが、分子量を30kDaに変更したことから、各種レクチンへの親和性の結果と糖鎖の生合成を考慮し、N-アセチルグルコサミン4、マンノース3からなるアスパラギン結合型糖鎖構造(GlcNAc β1->2Man α1->3),(GlcNAc β1->2Man α1->6)Manβ1->4GlcNAc β1->4GlcNAc β1->Asnを新しく推定するに至った。ガモン1のアミノ酸配列から糖鎖の結合位置は4カ所まで可能であるが、糖鎖の質量比は分子量の5%であると定量されいることを考慮すると、ガモン1には、この糖鎖が1つ結合していることになる。
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