われわれは数年前より、短寿命の放射線ポジトロンを利用したポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)によるがん診断、あるいは、ホウ素-10(^<10>B)と熱中性子との反応で生ずる低エネルギーのα-粒子を利用するがんの中性子捕捉療法に関する研究を進めている。 本年度は、p-ボロノフェニルアラニン(BPA)を含むジペプチドライブラリー作成のため、BPAが大量に必要となった。このアミノ酸の合成には、従来Snyderや切畑らによる方法が用いられてきたが、いずれも、CCl_4や臭素といった有害なまた有毒な試薬を使用しなければならず、合成法としては必ずしも適当とはいえなかった。そこで、今回p-ブロモベンズアルデヒドを出発原料とし、Erlenmeyer法を利用した合成法の開発を試み、ようやくその経路を確立することができた。現在、BPAの大量合成を進めているが、今後は酵素分割による光学活性体の調製に移る予定である。 BPAの入手が容易になったことから、切畑等が^<10>Bのキャリアーとして開発したBPAのカルボキシル基をアルコールに還元した化合物BPA-olにBPAを結合させ、より有効な^<10>Bのキャリアーとして利用できないかと考えた。最近、その合成にも成功したので、今後、腫瘍細胞への取込み、および、殺細胞効果に関する試験を行う予定である。また、これらの研究途上でPETに代わる方法として、^<11>Bあるいは^<19>Fを含む腫瘍細胞集積性ペプチドを利用した、核磁気共鳴イメージング(MRI)法が癌の診断に適用できるのではないかと考え、その方向に沿った研究も開始している。
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