平成11年度には、4-フルオロフェニルアラニン[Phe(4F)]含有ペプチド9種を合成し、それらの腫瘍細胞集積性を調べた。その結果、これらのペプチドはいずれもがん細胞に特異的なオリゴペプチドトランスポーターを介して腫瘍細胞に取り込まれるという、重要な事実を見い出した。しかしながら、ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)によるがん診断に利用するためには、フェニルアラニンの簡便なフッ素化反応を開発し、^<18>Fで標識したPhe(4F)を調製しなければならないという課題が残された。 平成12年度には、まず、p-ボロノフェニルアラニン(Bpa)を含むジペプチドの合成を行った。現在までに、セリン、グルタミン酸、リジン3種のアミノ酸をC-端としたBpa含有ペプチドを合成した。これらのペプチドは、いずれもBpaの約300倍の水溶性を有し、Bpaが水に溶けにくいという問題点を解決することができた。しかも、Bpaと同等、あるいは、より高い腫瘍細胞集積性が認められ、今後の中性子捕捉療法に向けた試験に大きな期待を抱かせる結果が得られた。さらに、このような研究に必須となるBpaの安全で簡便な新規合成法の開発にも成功した。 続いて、切畑等が^<10>Bのキャリアーとして開発したBpaのカルボキシル基をアルコールに還元した化合物Bpa-olにBpaを結合させ、より有効な^<10>Bのキャリアーとしての利用を検討することにした。最近、その合成にも成功したので、今後、腫瘍細胞への取込み、および、殺細胞効果に関する試験を行う予定である。 以上の成果をもとに、PETに代わる方法として^<11>Bあるいは^<19>Fを含む腫瘍細胞集積性ペプチドを利用した、核磁気共鳴イメージング(MRI)法が癌の診断に適用し得ると考えるにいたり、現在、その方向に沿った研究を開始している。
|