研究概要 |
有機化学的手法を用いた、ヘム蛋白質の機能と構造に関する多くの情報を得るための一連の研究の一つとして、メソ位にトリフルオロメチル基を位置選択的に有する高歪みポルフィリンおよびクロリンを合成し、それらの物理化学的性質と立体構造について調べ検討した。さらに、メソ位にトリフルオロメチル基を位置選択的に有する高歪み天然型ヘムおよびそれを含む再構成ヘム蛋白質の合成についても検討した。 昨年度報告した、オクタエチルポルフィリン(OEP)のメソ位に1つだけトリフルオロメチル基を有するポルフィリン1(meso-MTFP)の合成と同様の光化学反応法により、OEPの誘導体であるオクタエチルクロリン(OEC)のγ位に1つだけトリフルオロメチル基を有するクロリン2を選択的に合成することができた。2の酸化還元電位をOECのそれと比較したところ、アノディックシフトした酸化電位の差に対して還元電位の差がわずかに大きく、また、エネルギー計算の結果からも2のLUMOの安定性はHOMOに比べて若干、大きいことがわかった。1と比べるとその割合はかなり小さく、ピロールの還元によりβ位のエチル基による立体障害が小さくなったために、歪みも小さくなったものと思われる。^1H-NMR、^<19>F-NMRなどの結果からもこのことが示唆された。 天然型非対称ポルフィリンであるメゾポルフィリン-IX-ジメチルエステル(Meso-IX-DME)に対する同様の反応の場合は、一置換体であることは明らかであるが、4つの位置異性体の混合物が得られたことが電子スペクトルと^<19>F-NMRの結果から明らかになった。これらを分離し、ヘムを得てアポ蛋白質と結合させれば、再構成ヘム蛋白質の合成も可能である。 3,4-diethyl-2-(1-hydroxy-2,2,2-trifluoroethyl)pyrroleを前駆体とした全てのメソ位にトリフルオロメチル基を有する高歪みポルフィリン3の合成についても検討したが3を得るまでには至らなかった。
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