パーフルオロカーボンは有機溶媒や水と分液できる第3の相として特異な性質を有している。しかも、高度にフッ素化された化合物がこのパーフルオロカーボン相に溶解しやすいことに着目し、フローラス合成が提唱された。一方、糖鎖の固相合成例も次々と報告されているが、いずれも実用レベルにはほど遠いのが現状である。そこで、新たにシャトル合成という新しい反応を提唱した。これは、フローラス合成と固相合成を組み合わせ、固相担体に固定化されたグリコシル供与体とシャトルマーカーと名付けた高度にフッ素化された保護基を持つグリコシル受容体を反応させ、目的とする糖鎖が固相、パーフルオロカーボン相、有機溶媒相と順次相間を移動しながら反応が進行するというものである。 まず、固相合成法における糖含量の定量、反応のモニターを可能にする蛍光性保護基として、3-N-(5-ジメチルアミノナフタレン-1-スルホニル)アミノプロピオニル(DSAP)基を開発した。実際に、簡易型シャトル型反応を行うことができ、反応を詳細にモニターできる有効な方法であることが確認された。 次に、相間シャトル合成の鍵となるフローラス合成を可能にする高度にフッ素化された保護基(シャトルマーカー)としてβ-アラニンのアミノ基を高度にフッ素化されたアルキル基で置換した後、得られる2級アミンをさらに高度にフッ素化されたアシル基でアミドへ変換し、シャトルマーカー導入試薬となるカルボン酸(PFP-OH)を開発した。次に、3糖合成へ応用し、従来の固相合成と同様に試薬を過剰に用いることができる利点を有し、しかも、ステップごとにNMRなどの分析操作が可能であることなど、固相合成を凌駕できる可能性を秘めていることが実証できた。
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