外因系血液凝固阻害因子TFPIはXaおよびVIIa因子の活性を阻害することにより外因系血液凝固反応を阻害するプロテアーゼインヒビターである。TFPIは硫酸化多糖であるヘパリンと相互作用することにより、その活性が増強されるが、両者の相互作用にはヘパリン糖鎖に不規則に結合している硫酸基が関与していると考えられる。本研究は、ヘパリンによるTFPIの活性増強のメカニズムを解明することを目的としている。 ヘパリン中のN位、6位および2位の3種の硫酸基をそれぞれ位置選択的に脱離させた脱硫酸化ヘパリンを調整した。ヘパリンの脱硫酸化は硫酸基の定量およびNMR法により確認した。まず、ヘパリンの位置選択的脱硫酸化と生体分子間相互作用解析装置(SPR)の組み合わせによる測定方法を確立した。続いて、脱硫酸化ヘパリンをリガンドとして固定化したキュベットを用いたSPRによる測定により、それぞれのヘパリンとTFPIとのk_<ass>、k_<diss>及び解離定数を測定した。さらに、ネイティブヘパリンを固定化したキュベットを用いて、脱硫酸化ヘパリン共存下でのネイティブヘパリンとTFPIとの結合を測定した。これにより、ネイティブヘパリンとTFPIとの結合に対する各種脱硫酸化ヘパリンによる阻害効果を解析した。以上の結果より、ヘパリン中のN位、6位および2位の3種の硫酸基いずれもがTFPIとの結合に関与しているが、その寄与は6位の硫酸基が一番大きい事が分かった。また、いずれかの硫酸基1種類を残したヘパリンでも、TFPIの活性増強が可能であることを見いだした。 限定条件下での亜硝酸分解によりヘパリンを断片化し、ゲル濾過により2糖〜18糖までのヘパリン断片を得た。それぞれの断片をリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィーおよびSPRによる測定により、TFPIと相互作用する最小糖鎖が18糖であることを明らかにした。
|