ズブチリシンのプロペプチドは、成熟体部分の立体構造形成に必要な分子内シャペロンとして機能する他、C末端領域でズブチリシンに結合し阻害することがわかっている。プロペプチドに相同性のあるプロテアーゼインヒビターである酵母プロテアーゼBインヒビター2(YIB2)およびヒラタケプロテアーゼAインヒビター1(POIA1)のC末端6残基をプロペプチドに合わせるように置換すると、ズブチリシンに対する結合能および抵抗性が大きく上昇することから、プロペプチド同様C末端領域でズブチリシンに結合する阻害様式を示すものと考えられた。そこでYIB2のC末端残基AsnのみをTyrに置換した変異体、およびC末端6残基を置換した変異体からC末端のTyrを取り除いた変異体を作成したところ、これらの変異体はズブチリシンに対する阻害活性が低下し、さらに一時阻害の現象を示すように変化した。またYIB2のC末端のみを置換した変異体の方が阻害活性が強かった。これらのことから、ズブチリシンとの結合には特にC末端残基の寄与が大きいこと、プロテアーゼに対する結合能と抵抗性の間には高い相関関係があることが明らかとなった。一方、これらのインヒビターが分子シャペロンとして機能するか調べるために、活性残基Ser221をAlaあるいはCysに置換したズブチリシンのN末端に、C末端6残基を置換したYIB2あるいはPOIA1を融合した蛋白質を作成し、変性状態からの巻き戻しを行った。その結果、円二色性スペクトルからこれらの融合蛋白質は二次構造を形成することがわかり、またズブチリシンSer221→Cys変異体との融合蛋白質では、インヒビター領域と成熟体領域の間のペプチド結合の切断が起こり、活性部位を含めたズブチリシン成熟体領域の立体構造が形成していることが明らかとなった。すなわち、これらのインヒビターはズブチリシンに対する分子内シャペロンとして機能することがわかった。
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