ズブチリシンのプロペプチドは、成熟体領域の立体構造形成を促進する分子内シャペロン活性のみならず、C末端領域でズブチリシンに結合して阻害活性を示すことがわかっている。それ自身では立体構造を持たないものの、Ala47→Phe、Gly13→Ile、Val65→Ileの変異を逐次導入すると、立体構造を形成すると共にプロテアーゼインヒビターとしての活性が向上する。本研究ではプロズブチリシンにこれらのアミノ酸置換を導入し、これらの立体構造形成速度を測定し分子シャペロン活性の変化を調べた。その結果、これらの変異が導入されるにつれプロズブチリシンの立体構造形成が速くなり、分子内シャペロンとしての機能も向上していることが明らかとなった。一方、プロペプチドに相同性のある2種類のプロテアーゼインヒビターYIB2およびPOIA1は、野生型ではズブチリシンに対して一時阻害の現象を示すものの、プロペプチドに合わせるべくC末端6残基を置換すると、ズブチリシンに対する阻害活性および抵抗性が大きく上昇することが明らかとなり、プロペプチド同様C末端領域でプロテアーゼに結合することにより阻害活性を示すユニークなプロテアーゼインヒビターであることが明らかとなった。これらC末端6残基を置換したYIB2およびPOIA1をズブチリシン成熟体のN末端に融合し、変性状態からの巻き戻しが起こるか否か調べた。その結果、円二色性スペクトルから融合蛋白質は二次構造を形成することが明らかになると共に、ズブチリシンSer221→Cys変異体との融合蛋白質ではインヒビター領域と成熟体領域の間のペプチド結合の切断が起こることがわかり、活性部位を含めたズブチリシン成熟体領域の立体構造が形成していることが判明した。これらの結果は、プロペプチド同様C末端領域でズブチリシンに結合するインヒビターであるYIB2およびPOIA1は、分子シャペロンとしても機能し得ることが明らかとなった。
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