RNAポリメラーゼのσサブユニットは、RNAポリメラーゼによるプロモーターの認識と、転写開始点付近のDNA二重鎖の開裂に中心的な役割を果たすと考えられている。多くのバクテリアはプロモーター認識の特異性がそれぞれ異なる複数種のσを持つ。大腸菌における主要σであるσ^<70>、終止期特異的に働くσ^<38>、窒素代謝関連遺伝子の発現に働くσ^<54>の3種のσ因子を対象に、分子上の様々な位置に1個のみシステイン残基を持つ変異体をそれぞれ12種類、9種類、5種類作成した。システイン特異的な修飾反応を使って、これらのσ変異体のそれぞれにペプチド鎖・ヌクレオチド鎖切断活性を持つ鉄・EDTA誘導体を導入した。ホロ酵素を再構成したのち、切断反応を行なって、RNAポリメラーゼのβ、β'サブユニット上の切断位置を同定した。また、DNAを加えて転写開始複合体を形成させたのちに切断反応を行ない、鋳型DNAの切断位置を調べた。その結果から、3種類のσ因子がコア酵素上のほぼ同一の領域と接触していること、転写開始複合体中でのσ因子の配向が互いによく似ていることが示された。特にσ^<54>は一次構造上は他のσ因子と全く似ていないにもかかわらず、高次構造およびコア酵素やプロモーターDNAとの結合様式が他のσと類似していることを示唆している点で興味深い。今後は閉鎖複合体や不全開始複合体についても同様の解析を行ない、転写開始過程におけるσ因子を含めた転写複合体全体の構造変化を追跡する予定である。
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