ナトリウムポンプをプローブ標識した酵素標品(BIPMおよびRH-421)を用いた反応中間体生成並びにその消失の速度論的検討から、 1.反応中間体生成に伴うポンプ分子の構造変化に伴いRH-421プローブ並びにBIPMプローブは反応中間体の性質に依存した蛍光強度変化を示す。 2.各プローブの蛍光強度変化の前定常状態の解析から、両プローブはリン酸化中間体生成に伴うイオン結合の状態ないしはイオンの移動を反映する事が明確となった。特に従来、ナトリウムイオンの結合のみを反映するとされていたRH-421プローブはカリウムイオンの閉塞状態にも依存して蛍光変化を起こし、本酵素の構造変化を解析する極めて有効な手段であることが明らかになった。 ナトリウムポンプ分子の反応サイクルにおける反応中間体の生成量とリガンド結合量の測定から 1.ナトリウムイオンのみが存在する場合、ポンプ分子の50%のサブユニットは反応中間体であるリン酸化酵素として存在し、残りの50%のサブユニットにはATPが結合している。また、ナトリウムイオンの濃度を変化させて蓄積しているリン酸化酵素の性質を変化させてもATP分子を結合している量に変化を与えない。 2.カリウムイオンが存在し、通常のATPase反応が進行する条件においてはリン酸化中間体生成に依存したカリウムイオンの酵素分子への閉塞が起こる。その状態においても依然として50%のサブユニットにはATPが結合している。 本研究において、活性を有するが反応中間体生成に関与できないと思われた50%の触媒サブユニットは反応サイクルにおいて常時ATP分子を結合している事が明らかになった。従来のリン酸化反応中間体の性質並びに分子観察の結果をあわせてナトリウムポンプの4量体仮説を提唱した。
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