研究概要 |
神経細胞がいかに特定の神経栄養因子に対する依存性を獲得するかを理解することは,神経細胞の生存維持,神経回路の形成の機構を明らかにする上で極めて重要である. 我々は,交感神経細胞の初代培養をもちいて,骨形成因子(BMP2)とレチノイン酸(RA)が協同的に作用して,ニューロトロフィン3(NT-3)受容体(trkC)およびGDNF受容体(GFRα-1)の発現を誘導すると共にTrkCのリガンドであるNT-3の産生を誘導することを見いだした.すなわち,BMP2とRAは神経系の形成初期に作用し,神経細胞のニューロトロフィン応答性を誘導すると共にその特異性を決定していると考えられる.さらに我々は,Mrna-D.D.法により,BMP2/RAにより誘導される遺伝子を多数見いだした.その中の1つがコードする新規タンパク質(分子量約80K)をBRINP(BMP2/RA-Inducible Neuron-specific Protein)と命名した. 本研究においてBRINPの発現を詳細に解析したところ,神経系特異的に発現しており脳においては,胎生後期より海馬に特異的に発現していた.また,BRINP遺伝子のプロモーター部位を解析したところ,種々の神経系株化細胞において,神経分化因子の作用によりプロモーター活性が誘導されることが明らかになった. BRINPは,既知の蛋白質と相同性を有しない全く新規の蛋白質であり,その直接の機能は未知である.そこでBRINPの生理機能を明らかにするためには,BRINP遺伝子を欠損したマウスを作成し,個体発生と生理機能の変化を解析することが有効である.既に,ゲノム構造の解析を終了し,BRINP遺伝子をノックアウトしたマウスES細胞を得たので,ノックアウトマウスの作成は,半年以内に達成できると思われる.
|