筋小胞体Ca^<2+>-ATPaseはATPの加水分解に共役して、Ca^<2+>を細胞質から小胞体内腔へ輸送する。その触媒過程では、ATPのγ-リン酸基がAsp351に転移してリン酸化中間体(EP)が形成し、その異性化と加水分解が順次起こる。本研究では、本酵素の構造と機能について、次のような成果を得た。 1.Asp351近傍のSH_D(Cys344 & Cys364)をN-エチルマレイミド修飾するとEPの異性化がブロックされるが、水の活動度を下げて触媒部位からの水分子の排除を促進すると、SH_D修飾酵素でもEPの異性化が生起することを発見した。これにより、EPの異性化に必須である触媒部位からの水分子排除にSH_D領域は重要であることを明らかにした。 2.本酵素の細胞質領域は3つのドメイン(リン酸化-、ATP結合-、及びA-ドメイン)からなる。これまで機能が不明であったAドメインについての部位特異的変異により、このドメイン中のArg198はEPの迅速な加水分解に必須であり、加水分解時にはリン酸化部位のごく近傍に位置することを明らかにした。 3.Aドメイン中のHis5とその近傍領域は、EP加水分解時にリン酸化部位近傍に位置すること、この領域は小胞体による品質管理に感受性が高く、細胞内でCa^<2+>-ATPase蛋白が正常で安定な高次構造を形成し発現するために必須であることを、部位特異的変異と細胞内における蛋白発現・分解の解析により、明らかにした。 4.Trypsin、proteinase K、及びV8-proteaseによる切断実験により、EPの異性化に伴いCa^<2+>-ATPaseはこれらproteasesに対し強く抵抗性のコンパクトな構造となること、この構造は細胞質の3つのドメインが集まった構造であることを明らかにし、ATP加水分解過程で細胞質の3つのドメインが大きく動くことを明らかにした。
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