RasおよびRhoファミリーGTP結合蛋白質は、細胞の増殖、分化、形態、接着、運動などを制御し、その異常は細胞の癌化に深く関与している。これらを調節しているグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)に注目して、上流からの刺激に応答した活性調節機構を解析した。とくに、Rhoファミリー蛋白質に対するGEFであるDblファミリー蛋白質のうち、DblとRas-GRF-1について、リン酸化などの効果を検討した。DblのN末端領域にはG蛋白質βγサブユニット(Gβγ)が結合することが明らかとなり、G蛋白質共役型レセプターの下流でのDblの役割が示唆された。また、Cdc42の標的分子であるACK-1チロシンキナーゼがDblをリン酸化し、その結果、GEF活性が上昇することが見いだされた。さらに、EGFレセプターから、Cdc42とアダプター分子Grb-2、ACK-1、Dblを経て、Rhoファミリー蛋白質によりアクチン細胞骨格系が制御されていることが明らかにされた。今後、G蛋白質共役型レセプター、チロシンキナーゼ型レセプターの下流でのDblの機能をさらに検討していきたい。一方Ras-GRF-1に関しては、Gβγ刺激に応答したRas-GRF-1のチロシンリン酸化と、Racに対するGEF活性の誘導が明らかになった。さらにその過程には、非レセプター型チロシンキナーゼSrcが関与していることを示唆する結果も得られた。また、ACK-1もRas-GRF-1をリン酸化し、この場合はRasに対するGEF活性が著しく上昇することが明らかとなった。Ras-GRF-1は、もともとRasに対するGEFとして同定された分子で、カルシウムやGβγ刺激に応答した活性化が報告されているので、RasとRacの協調的な制御機構を今後さらに詳細に検討していきたい。
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