研究概要 |
本研究は放線菌Streptomyces incarnatusのシネフンギンの生合成酵素の諸性質と触媒機構を分子レベルで解明することを目的とする。昨年度より,放線菌の宿主ベクター系を用いてシネフンギン生合成酵素の遺伝子クローニングを進め,シネフンギン様活性を示す3個の組換え体(S. lividans TK24#19,#20,#21)を得た。これらの組換え体の培養液中にシネフンギン様物質が生成していることが示唆された。その生産量は放線菌Streptomyces lividansよりもむしろ低かった。これはもともとクローニングに用いたプラスミドが高発現を促すプロモータ配列を持たないベクターであり,ベクター自身のコピー数も低いと考えられた。そこでシネフンギン生産を確かめるために組換え体#19,#20,#21を大量培養して培地に蓄積したシネフンギンを精製して化学的に同定した。2Lの培養液の遠心上清を活性炭カラム,陽イオン交換カラム,陰イオン交換かラムにかけてシネフンギンを精製した。その結果,メチル化阻害試験,薄層クロマトグラフィー,HPLC上でのco-chromatographyから3株ともシネフンギンを生産していることが示された。もっとも生産量が高いのが#19株で,#20,#21が生産するシネフンギンは微量であった。つぎにこれらの組換え体にクローニングされたDNA断片を解析するために組換えプラスミドの精製を検討した。放線菌からのプラスミド抽出法に従って検討したがアガロースゲル電気泳動上に,プラスミドははっきりと見えるほど得られなかった。プラスミドのコピー数が少なくて見えないのか,あるいは染色体DNA中に取り込まれた可能性が高い。そこでPCRによりベクター上に存在するチオストレプトン耐性遺伝子(tsr)検出を試みた。しかしながら様々なPCR条件下でも組換え体#19,#20,#21の染色体からtsr遺伝子は増幅しなかった。コントロール実験として低コピープラスミドからのtsr遺伝子増幅やゲノムDNA中のrpsL遺伝子の増幅などを行い,PCR実験の手順に問題がないことを確認した。現在のところ,未確認ではあるが、クローニングされた遺伝子断片はゲノムDNA中に組みこまれていると考えている。今後はゲノムレベルでの解析のためにパルスフィールドゲル電気泳動とサザンハイブリダイゼーションによりクローニングされた遺伝子の回収を行うとともに,ベクターを改良した上でクローニングを再度やり直すことを計画している。今年度は本研究に関する報文1報が掲載され,1報が掲載予定である。
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