研究概要 |
我々は今までの研究により,アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AAT)では(A)シッフ塩基が脱プロトン化された酵素に双極イオン型基質が結合する過程,と(B)シッフ塩基がプロトン化された酵素に陰イオン型基質が結合する過程,の2つが存在することを明らかにして来た.この機構を他のピリドキサール酵素について検証する目的で芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)の触媒反応の酸塩基化学の速度論的解析を行った.その結果,AADCのシッフ塩基は常時プロトン化されており,AATの(B)に相似の過程が起こっていることが示された.ところが,これに加えて双極イオン型の基質もある程度結合し,結合後に陰イオン型に変換され,その際プロトンは溶媒に放出されることも判った.いずれの場合も基質は補酵素ピリドキサールリン酸と反応する際にはプロトンを完全に失った状態にあること,さらに中間体のスペクトル解析を併用することにより,脱カルボキシル化反応後,シッフ塩基のイミンあるいはLys303 ε-アミノ基からプロトンが基質α位カルボアニオンに移動し,脱プロトン化された形の生成物-ピリドキサールリン酸シッフ塩基が形成され,そのあとで溶媒からのプロトンがシッフ塩基に付加し,イミノ基転移反応によって生成物が遊離するという詳細な反応機構が明らかとなった.
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