PSは小胞体で生合成され、その多くがミトコンドリア内膜に輸送されミトコンドリア内膜酵素であるPS脱炭酸酵素によりホスファチジルエタノールアミン(PE)へと変換される。このPS脱炭酸経路は、細胞膜や細胞内の各オルガネラ膜のPEレベルを正常に保つために必須の経路であり、それら生体膜の機能発現に密接に関わっている。しかしながら現在、この経路に関わる酵素に関しては多くのことが明らかにされているものの、PSの小胞体からミトコンドリアへの輸送機構はほとんど理解されていない。今回我々は、セミインタクト細胞を用い、この輸送に依存したPSの脱炭酸を促進するタンパク質性因子を牛脳より精製した。精製タンパク質の内部アミノ酸配列を決定したところ、その配列はS100Bタンパク質のアミノ酸配列の一部に一致した。また大腸菌で発現、精製した組み換え型S100Bタンパク質は、セミインタクト細胞において輸送に依存したPS脱炭酸を著しく促進した。これらの結果とS100Bタンパク質がPS脱炭酸酵素活性を有しないことから、S100Bタンパク質がPSのミトコンドリアへの輸送に関与することが示唆された。
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