我々は以前に、動物細胞におけるホスファチジルセリン(PS)生合成がPSによるフィードバック制御を受けることを明らかにした。またCHO-K1細胞からPSの生合成調節に損傷を有する変異株(#29株)を分離し、その解析から、PSによるフィードバック制御は、PS合成酵素遺伝子の転写や翻訳の過程での制御ではなく、PSによるPS合成酵素の酵素活性制御が非常に重要であることを明らかにした。さらに、PSによるPS合成酵素の活性制御は、PSとPS合成酵素との直接の相互作用ではなく、制御を仲介する何らかの因子が存在することも明らかにした。本年度は、PSの生合成調節機構をさらに詳細に明らかにすることを目的に、PSの生合成調節に損傷を有する様々な変異株を簡便に分離する方法の開発を、#29株をモデル細胞に用いて試みた。#29株は、野生株CHO-K1と異なり、そのPS合成が外因性のPSにより制御されない。これまでに、種々のPS誘導体の#29株とCHO-K1株の細胞増殖に対する影響を調べたところ、PS誘導体の一つであるアルキルリゾPS(ALPS)が、野生株CHO-K1の増殖を停止させるが、#29株の細胞増殖には影響を及ぼさないことを見いだした。さらに、ALPSは、CHO-K1株のPS合成を著しく抑制するが、#29株は、ALPS存在下でも正常レベルのPSを合成することを見いだした。従って、PSの生合成調節に損傷を有する変異株を、ALPS耐性変異株として簡便に分離することが可能と思われた。現在、この簡便な方法を用い、様々な新たなPS生合成調節変異株を分離することを試みている。
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