1.ホスファチジルセリン(PS)の生合成調節機構に関する研究 CHO-K1細胞には、2種類のPS合成酵素(PSS IとPSS II)が存在する。本研究では、PSS IIの活性調節機構に関する研究を行い、以下のことを明らかにした。(1)PSS IIの活性は外因性のPSにより阻害される。(2)PSS IIを過剰に発現するとPSS IIの活性が外因性のPSにより正常に制御されなくなる。(3)過剰に発現されたPSS IIの活性は、正常な細胞内PSレベルを保つために外因性PSによる制御機構とは異なる制御機構でその活性が抑制されている。(4)PSS IIの97番目のアルギニン残基は、外因性PSによる活性阻害と過剰産生酵素活性の抑制の両者において非常に重要な役割を担うアミノ酸残基である。 2.PSの細胞内輸送機構に関する研究 哺乳動物細胞におけるPS脱炭酸によるホスファチジルエタノールアミン(PE)合成は、PSの小胞体からミトコンドリアへの輸送が必要である。セミインタクトCHO細胞における輸送に依存したPS脱炭酸は、牛脳の細胞質因子により促進された。その促進因子を精製し、精製タンパク質の内部アミノ酸配列を決定した。その配列はS100Bタンパク質のアミノ酸配列の一部に一致した。また大腸菌で発現、精製し組み換え型S100Bタンパク質は、セミインタクト細胞において輸送に依存したPS脱炭酸を著しく促進した。これらの結果とS100Bタンパク質がPS脱炭酸酵素活性を有しないことから、S100Bタンパク質がPSのミトコンドリアへの輸送に関与することが示唆された。
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