平成11年度は、Na^+/H^+交換輸送体(NHE)の構造と機能について大きく分けて3つのプロジェクトを継続して行い、次のような成果を収めた。 1.NHEの膜トポロジーの決定。普遍型アイソフォームNHE1の9個のシステイン残基をすべてアラニンに変異させたシステインのないNHE1を作成し、これをもとに80個を超えるシステイン残基を様々な領域に導入した。SH修飾試薬に対する反応性を指標に、導入したシステイン残基が細胞外・細胞内・膜内のいずれの領域に存在するかを決定した。その結果、従来のモデルとは異なる12個の膜貫通ドメインを含むNHE1の新しい膜トポロジーモデルを提唱した。2.NHEによる細胞容積調節機構。NHE1は高浸透圧刺激によって活性化を受けることが知られており、細胞収縮からの回復過程(RVI)に重要な役割を担う。しかしNHE1とは異なり、上皮細胞系のアイソフォームNHE2は高浸透圧による活性化を受けない。NHE1・NHE2間のキメラあるいはNHE2分子内への点変異導入によって、高浸透圧に対する反応性の違いが分子のどの領域によってもたらされるかを検討した。その結果、NHE2の第一細胞外ループ領域が高浸透圧刺激による活性化を抑制する阻害ドメインとして機能するらしいことが判明した。3.NHE1とカルシニューリン類似タンパク質(CHP)との相互作用。NHE1のaa510-530がCHP結合部位であることが判明した。GFP-CHPタンパク質の蛍光をモニターしてCHPの細胞内局在を観察した。CHPはNHE1を発現しないPS120細胞では細胞質に、NHE1を発現すると形質膜に局在することが判明し、NHE1がCHPの結合する主要なタンパク質であることがわかった。また、CHP結合部位に変異を導入したNHE1分子の解析から、CHPはNHE1が交換活性を発揮するのに必須のサブユニットである可能性が示唆された。
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