研究概要 |
瞬目反射連合学習は,音とまぶたへの侵害刺激の組み合わせにより,音を聴くだけでまぶたを閉じるようになるパブロフ型条件付けの一つである。この学習には小脳および海馬が関与していることが知られている。本年度は、CS-USの時間間隔を変えることにより海馬の果たす役割をマウスで検討した。 1.非競合的NMDAアンタゴニストMK-801の効果 MK-801は腹腔内投与により海馬依存的な空間学習を傷害することが知られている。MK-801(0.1mg/kg,i,p.)を条件付け前に投与し,遅延課題および各種トレース課題を用いて条件づけを行った。MK-801投与群は、生理食塩水投与群に比較して、トレースの時間に依存して顕著に障害され、マウスのトレース条件付けにおいて海馬が重要な役割を果たすことが示唆された。 2.海馬θ波と瞬目反射 海馬には7〜10Hz前後の集団的同期活動が存在し、空間学習および長期増強現象と深く関係している。慢性電極によりトレース課題中のθ波を記録し、記憶獲得および消去の時間経過と比較したが、残念ながら、顕著な相関や変化は認められなかった。今後、課題間の待ち時間中のθ波を解析する予定である。 3.小脳皮質LTD傷害マウスにおける海馬の役割 小脳皮質LTDに障害をもつGluRδ2欠損マウスは、遅延課題で学習が障害され、トレース課題では学習する。このLTD依存-非依存の切り替えに対する海馬の関わりを、MK-801(0.1mg/kg,i,p.)あるいはスコポラミン(0.5mg/kg,i.P.)により検討した。GluRδ2欠損マウスに各種薬物を投与しトレース時間0msの条件付けを行ったところ、野生型マウスの場合に比べ、顕著に学習が阻害されることが明らかとなった。この結果はLTD非依存的学習メカニズムにおいて海馬が重要な役割を果たすことを示唆している。
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