研究概要 |
ハロロドプシンは高度好塩菌のもつレチナール膜タンパク質であり,光の吸収によりCl^-を菌体内に輸送する. 昨年に引き続き,このハロロドプシンによるイオン輸送機構を解明するために以下の研究を行った.shark株由来のハロロドプシンを含む細胞膜画分をコンデンサーフィルム用薄膜(東レ,ルミラー,0.9μm厚)に吸着させた系を用い,レーザーパルスによる光電圧発生の時間分解測定を行った.その結果,shark株のハロロドプシンの光電圧発生過程はH.salinarum由来のハロロドプシンより若干遅い時定数を持つ二つの成分からなることがわかった.また,この過程はCl^-濃度を1Mから5Mに上げていくと遅くなることが観察された.このshark株由来のハロロドプシンのCl^-結合部位付近のアルギニン(H.salinarum由来のハロロドプシンのR108に相当)をグルタミンに置換した変異体について光電流発生の測定を行ったところ,1M Cl^-では有意な電流発生は見られなかったが,5M Cl^-ではっきりした電流発生が観察された.H.salinarum由来のハロロドプシンではこの残基は輸送機項に必須と言われてきたが,今回の結果はCl^-結合に非常に重要ではあるものの,必須とまでは言えないことを示している.おそらくこの残基が置換されて機能しなくても溶液中のCl^-濃度が非常に高くて,この部位付近まで浸透してくるような状況では,光吸収による蛋白の変化が輸送に結びつくと考えられる. さらに,イオン結合部位のイオンに対する親和性変化が輸送を引き起こす機構を理解するために,単純化したモデルを構築し,数値計算によって解析を行った.
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