細胞骨格の1つであるアクチンとアクチン線維架橋蛋白質を同時に封じ込めた人工脂質膜小胞(リポソーム)を作成し、その内部でのアクチンの重合の結果生じるリポソームの形態形成を観察し解析した。実験に使用したアクチン線維架橋蛋白質とそれらの機能は次の通りである。ファッシン:強固で直線的なアクチン線維の束を形成する。α-アクチニン:緩く屈曲し易いアクチン線維の束を形成する。フィラミン:アクチン線維の立体的な網目構造を形成させる。得られた研究結果は、生体膜の形態形成と各アクチン線維架橋蛋白質の性質、特にそのアクチン架橋様式との間には密接な関係があることを示している。これによって、細胞が異なる多くの種類のアクチン架橋蛋白質を発現させ機能させていることの理由の1つが明らかにされた。 またやはりアクチンの結合蛋白質であるが、逆にアクチン系細胞骨格を脱形成させるのに働いていると考えられているカルシウムイオン依存性調節蛋白質ゲルゾリンのリン酸化による調節制御機構の変化を調べた。リン酸化の結果、ゲルゾリンはカルシウムイオン非依存的にアクチン線維を切断し脱重合できるようになった。 ところで、アクチン結合蛋白質(タリンやエズリン)などの添加によって生じる膜穿孔現象の結果、リポソームがカップ状の形態を取ることがこれまでの研究から明らかにされていたが、今回シミュレーションによってこの形態が力学的に安定なものであることが確かめられた。 今回さらに同様な膜穿孔現象が、陽電荷を持つ界面活性剤をリポソームに加えることや、逆に陽電荷を持つ合成脂質を膜中に含むリポソームに界面活性剤を加えることによっても生じうることが明らかになった。また陽電荷を持つ界面活性剤を陽電荷を持つリポソームに加えた場合にはリポソーム膜の表裏反転が観察された。これらの結果は、生体膜が潜在的に非常に高い変形能力を持っていることを示している。
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