真核細胞の形質膜における情報伝達は、クラスリン被覆ピットやカベオラ、ラフト等の固有の力学的強度を持った膜ドメイン構造によってになわれる。本報告では、細胞情報伝達の制御を目指して、形質膜に物理ストレスを与え、膜ドメインの特異的な分子の集中をコントロールする研究を行った。 ポリエチレングリコールコレステリルエーテル(PEG-Chol)は、細胞に投与すると膜の外葉に分布し、膜には脂質を側方圧縮することから外側に折れ曲る変形ストレスをもたらす。 (1)細胞は膜に均一に分布するPEG-Cholに対しては、タンパク質のチロシンリン酸化等の応答を起こし、変形に抵抗する。これに対し、ビオチン化PEG-Cholを投与しそれをストレプトアビジンによって膜面で凝集させると、アクチンを含む顕著な管状突起が誘導された。この結果は、細胞膜面への物理ストレスに対し、そのディメンションに対応した固有の応答機構が存在することを示す。 (2)ser/thr脱リン酸化反応阻害剤オカダ酸を投与した細胞において、PEG-Chol投与のストレスにより、アクチンが小球となって細胞本体から分離する反応が誘起されることを見出した。さらにこれに伴って、ラフトやクラスリン被覆ピットも集中し、同ピットの構造タンパク質AP-2複合体とダイナミンの脱共役が起きた。 この結果から、細胞情報伝達構造としての細胞膜ピット構造は、膜脂質層にかかる力学ストレスに対応する機構によって制御されていることが明らかになった。 このようにPEG-Chol等の作用は、細胞への環境作用の研究応用上、非常に有効な物質であることがわかった。
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