外界から鼻に入ってくる様々な匂いは、嗅上皮の嗅神経細胞繊毛上に発現しているGタンパク質共役型嗅覚受容体によって認識される。マウスで約千種類といわれている嗅覚受容体のクローニング当初は匂い物質と結合する証拠はなかったが、我々はCa^<2+>イメージングを使って匂いに応答する嗅細胞を同定したのち各々の応答細胞から発現受容体をクローニングし、アデノウイルスで受容体遺伝子を嗅細胞に導入して匂い物質に対する特異的応答を再構成することによって嗅覚受容体が匂い物質を認識するという証拠を得た。さらに、匂い受容体のリガンド特異性を解析することにより、匂い受容体は同じ匂いを呈する物質を認識するのではなく、同じ匂いとは限らない構造的に類似する物質を認識することが明らかにした。また、HEK293培養細胞を用いて受容体の再構成を行い、嗅覚受容体がGsタイプのGタンパク質に共役し細胞内cAMP濃度を上昇させるという結果も得た。以前から仮説として提唱されていた匂い分子認識機構、すなわち、単一匂い物質に対して複数の受容体が存在し、単一受容体に対しても複数の匂い物質が応答するという組み合わせ論を初めて実験的に立証した。一方で、ある匂い物質を認識する複数の受容体が嗅上皮上でどのように分布しているかという、鼻腔内での空間的な匂い認識という視点からの匂い物質と受容体との対応付けの例はない。そこで我々は、新生児マウスから生の前額断切片を作成し、嗅上皮上での匂い物質に対する応答をCa^<2+>イメージングによってin situで測定した。様々な匂い物質をこの生切片に与えたところ、応答細胞が嗅上皮上でどのように分布しているかが明らかになった。さらに、匂い物質の濃度を変化させたところ、濃度依存的に応答細胞数の増加が見られ、同一匂い物質でも濃度によって感じる香調が変わってくるという経験則を支持する結果が得られている。
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