従来の溶液NMRによる蛋白質の立体構造決定においては、核オーパーハウザー効果(NOE)による水素原子核間距離情報とスカラー結合による2面核情報のみで決定されていた。最近になって、磁場中に弱く配向した試料を使った残余双極子間相互作用や、水素結合の供与基、受容基間に見られるスカラー結合を利用した水素結合同定法などの構造上も使われるようになってきた。本研究ではその2種類の手法の利用と開発を行った。 生体高分子の水素結合はX線解析法やNMRなどにより決定された座標を基に言わば間接的に予測されるのが一般的である。これは水素結合の存在を直接観測するのが困難であったからである。 我々はヒトの酸化ヌクレチド分解酵素MTH1蛋白質、原核生物キチナーゼのフィプロネクチンタイプIII様ドメイン、ヒトサイトカインIL-18について主鎖間の水素結合をスカラー結合によって直接観察を行い、立体構造決定の情報として利用した。TROSY法を利用したHNCOスペクトル測定により、水素結合の供与基、受容基を構成する多くのアミド窒素とカルボニル基間のスカラー結合が観測された。これは構造決定において信頼に足る初期構造を与えるため、重要な改良となった。特に非規則的なβシート部分、枝分かれした水素結合の同定に甚大な効果を示すことがわかった。 また新しい手法として水素結合のスカラー結合による直接観察については、Ras-GDPの系で主鎖アミド基とヌクレオチドーリン酸中のリン原子の間に、スカラー結合が存在することを初めて示した。観測されたのは^<15>N核と^<31>P核、^1H核と^<31>P核、の問である。これらのスカラー結合はP-O-H角度に大きく依存すると考えられれた。
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