赤血球分化に必須な転写因子GATA-1は、種々因子とさまざまな「橋渡し分子」複合体を形成することにより、複数の機能を発揮していると予想される。本研究では、GATA-1の標的遺伝子候補であるGATA-1遺伝子自身の転写制御領域を鋳型として用い、ゼブラフィッシュ胚に対する生体レポーター解析を行うことにより、生理的な条件下で活性をもつGATA-1「橋渡し分子」複合体の作用機序と分子的実体の解明を試みた。 まず、ゼブラフィッシュGATA-1ゲノム遺伝子を単離同定し、その翻訳開始点上流8kbにGFP遺伝子をレポーターとして接続したコンストラクトを構築した。この構築をゼブラフィッシュ胚に注入したところ、内因性のGATA-1発現を再現するGFP発光を示したので、この構築をゲノムに安定に組み込んだトランスジェニックフィッシュの系列を作製した。次に、このGATA-1-GFPレポーターフィッシュ胚に対して、GATA-1の過剰発現を行なった結果、体節期において異所的なGFPの発現誘導が観察された。種々の変異GFPレポーター構築を用いた結果、このGFP発現誘導には、翻訳開始点上流約6kbに存在するGATA配列が重要であることがわかった。このことはGATA-1遺伝子の発現における正のフィードバック機構の存在を示唆するとともに、GATA-1遺伝子がGATA-1の直接の標的遺伝子であることを個体レベルで初めて示すものとなった。このGFP発現誘導に必要なGATA-1蛋白質ドメインを明らかにするために、種々の変異GATA-1構築を準備し、過剰発現解析を行なった結果、GFP誘導には2つのZnフィンガーがともに必要であることがわかった。N末側のZnフィンガーは、FOGなどの因子と相互作用することが報告されており、他の因子との相互作用の必要性が示唆された。
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