研究課題/領域番号 |
11680672
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
飯野 雄一 東京大学, 遺伝子実験施設, 助教授 (40192471)
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研究分担者 |
國友 博文 東京大学, 遺伝子実験施設, 助手 (20302812)
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キーワード | let-60 / 線虫 / 環状ヌクレオチド依存性チャネル / 可塑性 / 嗅覚抑圧 / Ras-MAPキナーゼ系 / 嗅覚 / 化学走性 |
研究概要 |
線虫C.elegansは一連の化学物質を感知し、それに近寄って行く化学走性といわれる行動を示す。この行動を指標に、Ras-MAPキナーゼ(増殖因子活性化プロテインキナーゼ)シグナル伝達経路が匂い物質の感受(嗅覚)に関与していることを見いだした。この経路が不活性化あるいは強活性化した突然変異体では、一群の匂い物質への化学走性の効率が低かった。let-60 rasをヒートショックプロモーターや細胞特異的プロモーターによって発現させる実験により、正常なLET-60Rasの活性が成熟後の嗅覚神経で必要であることが示された。さらに、匂い物質イソアミルアルコールを野生型の線虫に与えると、10秒以内に嗅覚神経でMAPキナーゼが活性化された。この活性化は環状ヌクレオチド依存性チャネルTAX-2/TAX-4や電位依存型カルシウムチャネルのサブユニットUNC-2の機能に依存していた。これらの結果から、これまで細胞の増殖や分化に関する機能がよく知られていたRas-MAPキナーゼ経路が、線虫の嗅覚神経において感覚刺激の受容や伝達に関して動的な制御を行っている可能性が初めて明らかとなった。さらに、匂い物質への化学走性の可塑性の現象を見いだした。すなわち、濃い匂い物質に短時間線虫を浸すと、その匂い物質への化学走性が消失し、弱い忌避行動を示すようになった。Ras-MAPキナーゼシグナル伝達系の変異体は、この可塑性(仮に嗅覚抑圧と呼ぶ)に強い欠損を示した。変異体を用いた実験より、線虫の嗅覚神経のうち、誘引行動を引き起こすAWC神経と、忌避行動を引き起こすAWB神経、さらにAWCに支配される介在神経AIYがこの行動に必要であることがわかった。介在神経AIYの機能を介して誘引行動と忌避行動のバランスが制御されていると推定される。
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