増殖している細胞に温熱ストレスや放射線をかけると細胞周期の進行を停止する。ストレスから回避すると蛋白質あるいはDNA障害の修復機構が働き、再び細胞周期が進行する。この時、一部の細胞は障害を回復できずに死に至る。私たちは熱ショック応答システムが細胞周期の進行や細胞死に果たす役割を明らかにしてきた。興味深いことに熱ショック応答を担う2つの転写因子HSF1とHSF3を欠損したニワトリDT40細胞では生理的温度よりわずか1℃から2℃の温度上昇でもG1期とG2期で細胞周期を停止させることが明らかになった。細胞周期進行を停止させた細胞はアポトーシスにより死に至る。放射線照射による感受性もHSFを欠いた細胞では高い。HSF1とHSF3の両因子の欠損はHsp90αの発現を30%程度にまで低下させた。この結果、G2期からM期への移行に必要なcdc2蛋白質の不安定化が起こり、細胞周期が停止する。Hsp90α発現を親株のレベルにまで戻すとcdc2蛋白質の安定化と温熱感受性の回復が認められた。以上の結果から、HSFは通常の生育条件下においてもHsp90αの発現を特異的に制御し、蛋白質の安定化に働いていることが明らかになった。さらに、温熱ストレスの際にcdc2が標的の一つであることも示された。
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