Mixed lineage kinase(MLK)と呼ばれる一群のタンパク質リン酸化酵素はキナーゼドメインのC末端部に隣接してロイシンジッパー様の構造を持っており、この部分はホモ複合体の形成や他のタンパク質との相互作用を司る部位であると考えられる。我々はこれまでにMLKがMAPキナーゼ、中でもJNK、p38の活性化を引き起こすMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)として機能することを報告してきた。しかしMLKの活性調節メカニズム及び、これがどのような場面でのJNKやp38の活性化に関わっているのかという点については不明であった。我々はMLKの一つMUKのロイシンジッパー部位に結合するタンパク質をYeast two-hybrid systemを用いたスクリーニングにより複数同定し、その中の一つでMBIP(MUK binding inhibitory protein)と名付けたものがMUKの活性を強力に抑制することを見い出した。MBIPはそのC末端部位にロイシンジーッパー様の構造を持ち、このC末端部分がMUKとの結合及び活性抑制に必須であったことから、MLKの他のメンバーにもMBIPは同様の作用を及ぼすことが予想された。しかしMIBPの抑制効果はMLKの他のメンバーであるMSTやMLK以外のMAPKKKであるCotに対しては見られず、MUKに特異的なものであった。そこでこのMBIPを293T細胞に高発現させ、どのような刺激によるJNK活性化がこれにより抑制されるか検討した結果、紫外線、タンパク質合成阻害剤、TNFによるJNK活性化は影響を受けなかったが、高浸透圧によるJNK活性化は、MBIPの量依存的に抑制されることを見い出した。この結果はMUKが浸透圧ショックによるJNK活性化に関与していることを示唆するもので、その生理的意味合いについてさらに検討を加えて行きたい。一方マウスの胚発生期の神経組織においてMUKの高い発現が見られることを手がかりに、神経分化との関連についても研究を進めている。胚にMUKのアデノウイルスベクターを導入する実験等から、これが中枢神経系における神経細胞の移動、分化に関与している可能性を見い出しており、この点についても今後さらに検討を加えて行きたい。
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