研究概要 |
我々はこれまでにMLKに属するタンパク質リン酸化酵素MUKが、MKK7,SEK1をリン酸化/活性化することにより主にJNKの活性化を誘導する事を明らかにしており、この度はこのシグナル伝達系の生理機能を明らかにする目的で結合タンパク質の同定と発現パターンの解析を中心とした研究を計画した。MUK結合タンパク質の同定はYeast two-hybrid法を用いたスクリーニングにより行い、MUKのJNK活性化能を抑制するタンパク質MBIP(MUK binding inhibitory protein)をコードするヒトcDNAクローンを同定した。MBIPは既知のタンパク質と一次構造上の相同性を示さないが、タンデムに2個並んだロイシンジッパー様の構造を持ち、この部分でMUKのロイシンジッパー様構造を持つ部分と結合し、活性を抑制する事を明らかにした。MBIPのキナーゼ阻害活性はMUKに対して特異的で、他のMAPKKKであるMEKK1やMUKと同じMLK関連酵素でロイシンジッパー様構造を持つMSTによるJNK活性化を阻害するものではなかった。MUK発現パターンに関しては、今回発生途中の大脳において脳室帯のすぐ外側に位置するintermediate zoneに主に発現しており、この部分でJNKの活性も高いことを見い出した。この事はMUKが神経細胞分化の特定の段階で一時的に発現する事を示すもので、MUKが神経細胞の分化の過程で何らかの役割を担っている事が考えられた。この生理的意義をを明らかにする目的で、MUKのアデノウイルスベクターをマウス胚の側脳室に導入し、脳室帯細胞におけるMUKの異所的発現の効果を検討した。その結果、MUKの発現は神経細胞分化の初期段階を阻害するものでは無いが、その恒常的な発現は脳室帯を離れたあと脳膜側へ向かっての移動(radial migration)を途中で停止させることが明らかになった。これらの結果から、MUK-JNK経路は大脳皮質における未分化神経細胞の移動/分化の制御に関わると考えられた。
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