研究概要 |
鋳型活性化因子(Template Activating Factor-I,TAF-I)は、アデノウイルスDNA-コア蛋白質複合体のDNA複製および転写に必要な宿主因子として、ヒトHeLa細胞抽出液中に見いだされ、精製された酸性蛋白質である。ヒトTAF-Iは41kDのTAF-Iαと39kDのTAF-Iβよりなる。本研究は、TAF-Iの細胞内での機能を探ることを目的とする。これまでの研究より、精製した組換え体のTAF-Iβがアフリカツメガエルの除膜化精子染色体の脱凝縮を引き起こすことが明らかとなっていた。そこで、まずTAF-Iβのどのドメインがこの活性を担うかを検討した。TAF-IのC末端に存在する酸性領域を欠いた欠失変異体には活性がなかったが、興味深いことに、酸性領域をGST融合蛋白質とした場合にも活性をもたず、酸性領域は活性に必要だが十分ではないことがわかった。TAF-Iは溶液中で二量体として存在するため、二量体形成に必要なアミノ酸に点変異を導入したところ、染色体脱凝縮の活性が失われた。TAF-IβとN末端のみ異なるTAF-Iαの活性は非常に弱かったので、これらの結果から、TAF-IβのN末端領域、二量体形成領域、酸性領域の3領域が染色体脱凝縮の活性を担うことがわかった。次に、脱凝縮の際にTAF-Iが精子クロマチンの構成蚕白質のいずれかと相互作用するかをGST-pulldown assayにより調べた。GST-TAF-Iによって脱凝縮したクロマチンからは、精子特異的塩基蛋白質のほとんどが失われていた。その時、溶液中のGST-TAF-Iには、これらの塩基性蛋白質のうちSP3,4,5が結合していることがわかった。この結果、TAF-Iは、精子特異的塩基性蛋白質と直接結合してこれらをクロマチンからはずすことによって脱凝縮を引き起こす、というメカニズムが考えられる。
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