造血幹細胞システムの維持には、造血組織の間質細胞が、細胞間相互作用を介して、幹細胞の自己複製または未分化な段階の前駆細胞の状態を維持する分子機構が鍵となっていると考えられる。本研究は、造血前駆細胞が、造血組織間質細胞依存的な状態を取る際にリピッドが機能的なメディエーターとして作用するかを解明することを目的とした。 骨髄間質細胞株とそれに依存した増殖制御を受ける血球細胞株(THS119)を用いて、血球細胞が間質細胞に浸潤していく過程のリピッドの機能の解析を進めた。11年度の成果として、造血前駆細胞が造血組織の間質細胞の作り出す造血微小環境内に保持される際に、スフィンゴシン-1リン酸とLPAが機能的なリピッドであることを示し、造血前駆細胞でのリピッド受容体の発現制御が生理的に重要であることを示した。 1.THS119の間質細胞依存的な状態をIL-3依存的、間質細胞非依存的な状態で培養すること、間質細胞層の下には潜り込まない。この際にLPAの受容体であるedg-2の発現が低下していることを明らかにした。 2.THS119は間質細胞層の下に潜り込んで増殖し、維持されている。この際のリピッド受容体の発現が生体内でも同様に重要な意味を持つのかを検討した。マウス骨髄から未分化な血球画分を得て、リピッド受容体の発現を調べたところ、分化マーカ陰性、c-Kit陽性の画分ではedg-2の発現が高く、生体での造血前駆細胞においてもLPAが機能的であることを示すことができた。 3.リピッド受容体遺伝子を導入するためのレトロウイスルを構築した。 4.edg-2の間質細胞非依存的なTHS119での強制発現による浸潤能の回復は観察できなかった。
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