造血幹細胞システムの維持には、間質細胞との細胞間相互作用を介して、幹細胞の自己複製または前駆細胞の状態を維持する分子機構が鍵となっていると考られる。このことは、造血幹細胞、前駆細胞の段階では、造血組織に保持されていることが必要となる。本研究は、間質細胞依存的な血球細胞の依存的な状態に必要な機能分子を検索していくこと、特にリピッドが機能的なメディエーターとして間質細胞依存的血球細胞で作用するかを解明することを目的とした。研究を進めるに当たり、間質細胞依存的に間質細胞層の下で増殖・維持される細胞株をモデル系とした。造血支持能を示す骨髄間質細胞株TBR59を支持細胞として、SV40T抗原遺伝子トランスジェニックマウスから分化マーカ陰性、Sca-1陽性の造血幹細胞を含む未分化血球画分を共培養し、間質細胞依存的に増殖する、分化マーカ陰性、Sca-1陽性、c-Kit陽性の細胞株(THS119)を樹立した。間質細胞依存のTHS119を用いて、血球細胞が間質細胞に侵潤していく過程のリピッドの機能解析を進め、血球細胞が間質細胞層に浸潤する際に、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)とLPAが機能的に作用することを示した。さらに、S1PとLPAのそれぞれ特異的受容体であるedg-1とedg-2がTHS119で発現し、間質細胞依存的な状態を失ったTHS119ではedg-2の発現が低下していることがわかった。また、マウス骨髄の分化マーカ陰性、Sca-1陽性、c-Kit陽性の敷石状コロニーを形成する画分はedg-2の発現が有意に高いことを見つけ、前駆細胞でのリピッド受容体の発現制御が生理的に重要であることを示した。さらに、間質細胞依存的血球前駆細胞の解析を進め、B細胞分化のコミットメントが間質細胞によって可逆的に引き起こされることを見つけ、間質細胞と血球細胞の相互作用を解析する際の新しい視点を得ることができた。骨髄間質細胞に関しては、中胚葉性幹細胞由来であることを示す細胞株を樹立して研究を深めた。
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