信号伝達性膜蛋白gp130の神経系における役割の解明

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11680692
• 研究機関: 東京医科歯科大学
• 研究代表者: 中島 欽一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助手 (80302892)
• 研究分担者: 田賀 哲也 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (40192629)
• キーワード: gp130 / 神経幹細胞 / アストロサイト / サイトカイン / クロストーク / STAT / Smad / p300

研究概要

6つのgp130サイトカインは全て、その受容体複合体中に必須の信号伝達分子として膜蛋白gp130を共有する。近年このgp130の神経系における重要性が示されているものの、in vivoでの詳細な解析は行われていない。本研究ではgp130欠損マウスを用いてin vivoでのgp130の神経系における役割を解析した。さらに未分化神経上皮細胞を用いた我々の培養実験系では、全く異なるシグナル伝達経路を活性化する2つのサイトカイン群、gp130サイトカインとBMP因子群がそれぞれの単独添加ではなく、共存下にのみ相乗的な強いアストロサイトの分化が誘導されることを観察した。本研究ではこの2つの異なるサイトカイン群のシグナルクロストークのメカニズムについても解析を行った。
<A>gp130ノックアウトマウスを用いた解析
胎生18.5日目のgp130欠損マウスにおいて、後根神経節知覚ニューロンや、顔面神経核、疑核及び脊髄の運動ニューロン数が同腹対照と比べて減少していた。胎生14.5日目ではこれらの細胞数における対照胎仔との違いが見られず、gp130は発生初期というよりはむしろ後期において分化したニューロンの生存維持へ寄与することが示唆された。
<B>gp130サイトカインとBMP信号伝達経路のクロストーク機構の解析
この分子基盤として、それぞれのサイトカイン群の下流で特異的に活性化されるSTAT3とSmad1が転写共役因子p300を介する複合体を形成することにより、2種類のサイトカイン群のシグナル経路が核内で統合され相乗的なアストロサイトの分化が誘導されることをin vitroの培養系において示した。また胎生18.5日目のgp130欠損マウス脳においてアストロサイトの著減を観察し、このgp130サイトカインとBMP因子群の協調作用は生体内においてもアストロサイトの分化に重要であることを明らかにした。

研究成果

• [文献書誌] Nakashima K, (中略6) Taga T: "Synergistic signaling in fetal brain by STST3-Smad1 complex bridged by p300"Science. 284. 479-482 (1999)
• [文献書誌] Nakashima K, (中略8) Taga T: "Developmental requirement of gp130 signaling in neuronal survival and astrocyte differentiation"J. Neurosci.. 19. 5429-5434 (1999)
• [文献書誌] Nakashima K, (中略2) Taga T: "Astrocyte differentiation mediated by LIF in cooperation with BMP2"FEBS Lett.. 457. 43-46 (1999)
• [文献書誌] Nakashima K, Taga T: "gp130-stimulating cytokines: Its signaling mechanism and roles in the nervous systems"Recent Res. Devel. Neurochem.. 2. 297-304 (1999)
• [文献書誌] Yanagisawa M, Nakashima K, Taga T: "STAT3-mediated astrocyte differentiation from mouse fetal neuroepithelial cells by mouse oncostatin M"Neurosci. Lett.. 269. 169-172 (1999)
• [文献書誌] Kimura N, Nakashima K, (中略2) Taga T: "A novel mammaliam T-box-containing gene, Tbr2, expressed in mouse developing brain"Dev. Brain Res.. 115. 183-193 (1999)
• [文献書誌] Kimura N, Ueno M, Nakashima K, Taga T: "A brain-region specific gene product Lhx6.1 interacts with Ldb1 through tandem LIM-domains"J. Biochem.. 126. 180-187 (1999)
• [文献書誌] Kamiya A, (中略5) Nakashima K, Taga T, (後略3): "Fetal liver development requires a paracrine action of oncostatin M through the gp130 signal transducer"EMBO J.. 18. 2127-2136 (1999)
• [文献書誌] Yanagisawa M, Nakashima K, (中略5) Taga T: "Astrocyte differentiation of fetal neuroepithelial cells by interleukin-11 via activation of a common cytokine signal transducer, gp130, and a transcription facter, STAT3"J. Neurochem.. (in press).