研究概要 |
前年度までの本研究で、様々なシグナル伝達に関わるMAPキナーゼスーパーファミリーに属する新しいSer/ThrキナーゼMOKを同定し、マウス及びヒトの完全長cDNAをクローニングした。MOKは既知のMAK/MRK/MAPKにホモロジーが高く、様々な組織に比較的広く存在するが、特に精巣で発現が高かった。哺乳類培養細胞を用いた解析から、MOKはactivation loop領域のリン酸化によって活性化されることが示された。従来のMAPKを活性化する細胞刺激ではMOKはほとんど活性化されなかったが、発がんプロモーターTPA処理により活性が上昇した。 次いで、COS細胞にMOKを発現させ、共免疫沈降実験によりMOKと結合するタンパク質を複数単離した。Mass Spectrometryと抗体を用いた実験から、これらのMOK結合タンパク質は、HSP90,HSC/HSP70,HSP60,Cdc37からなる分子シャペロン複合体であることが明らかとなった。分子シャペロンの結合はMOKの細胞内での安定な存在に必須であり、ゲルダナマイシン処理によりHSP90の機能を阻害することで細胞内でMOKは速やかにプロテアソームにより分解された。各種欠失変異体を用いた実験より、MOKの一次構造上でキナーゼドメインI-IVがHSP90との結合に必要と結論された。 線虫C.elegansの決定されたゲノム情報から、MAK/MRK/MOKに対応するキナーゼ(M04C9.5)が一つ存在することが判った。同キナーゼをコードするゲノム断片を単離し、蛍光タンパク質GFPとの融合タンパク質を作成してその発現パターンから、このキナーゼは線虫の体壁筋と一部の神経細胞に発現していることが明らかとなった。しかしRNAi法を用いての解析では個体レベルでの同キナーゼの機能欠損による有意な表現系は観察されなかった。
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