大腸菌のFtsHは、膜蛋白質複合体のサブユニット(SecYやFoa)やいくつかの細胞質蛋白質(σ32やλCIIなど)の分解に関わるATP依存性プロテアーゼである。FtsHはN末端の二カ所の膜貫通領域(TM)で細胞質膜に結合している。我々は以前N末端膜結合領域はFtsH分子間のhomo-oligomeric相互作用にも重要であることを示した。N末端膜結合領域を欠いた変異体FtsH(ΔTM)を作製し発現させたところ、そのin vivoでの基質分解能は極めて低かった。FtsH(ΔTM)のN末端にGCN4由来のロイシンジッパー配列を融合させる(Zip-FtsH(ΔTM))ことにより、σ32に対する分解能は野生型FtsH近くまで回復したが、SecYの分解はほとんど見られなかった。一方、FtsH(ΔTM)のN末端にLacY或いはEnvZ由来のTM1/TM2領域を融合したLacY-FtsH-His6-Myc、EnvZ-FtsHは、in vivoでσ32、SecYの何れも効率よく分解した。FtsHの膜蛋白質基質の一つYccAのペリプラズム領域にPhoA配列を挿入した融合蛋白質の分解過程の解析から、LacY-FtsH-His6-Mycも我々が提唱した基質膜蛋白質ペリプラズム領域の細胞質へのdislocationを起こし得ると考えられる。クロスリンク実験及びドミナントネガティブ変異体を用いた遺伝子学的解析から、LacY-FtsHも(恐らくFtsH細胞質領域の弱い相互作用を通して)少なくとも一時的にホモ複合体を作ると考えられる。以上から、FtsHの蛋白質分解活性には多量体構造を取ることが重要であること、膜蛋白質の分解にはさらに膜への結合或いはTM領域の存在(配列特異性は無いと思われる)が必要であることが示唆された。
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