大腸菌のFtsHは、AAAATPaseファミリーに属するATP依存性プロテアーゼであり、膜蛋白質複合体のサブユニット(SecYやFoa)やいくつかの細胞質蛋白質(σ32やλCIIなど)の分解に関わる。FtsHはN末端の二カ所の膜貫通領域(TM)で細胞質膜に結合している。我々は、FtsHが膜蛋白質を細胞質に引きずり出しつつprocessiveに分解することを提唱した。分解開始に必要な基質側の要因として、細胞質に約20残基以上の長さの領域を(幾つかの膜蛋白質においてN末端に)持つことが必要であり、その配列特異性は低い。FtsHはそのような領域から分解を開始するのではないかと考えられる。FtsHのN末端にある膜結合領域は、自身の多量体化に重要である。この領域の解析から、FtsHの細胞質酵素領域は、多量体化によりはじめて可溶性蛋白質を分解し得るようになるが、膜蛋白質の分解にはさらに膜結合領域(配列特異性は低い)の存在が必要であることが分かった。多量体化はATPase活性の発現に必要である事が示唆された。さらに、FtsHの活性にプロトン駆動力(PMF)が関与する事を見出した。in vivoにおいて、膜蛋白質及び細胞質蛋白質の分解が、アンカップラー(CCCP)の添加により顕著に遅延し、反転膜小胞を用いたin vitro系でもカゼイン分解の呼吸基質による促進、CCCPによる解消が観察された。ATP依存性のFtsHプロテアーゼ活性には、PMFも促進的な役割を果たしていると考えられる。
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