研究概要 |
大腸菌のFtsHは、AAAATPaseファミリーに属するATP依存性プロテアーゼであり,膜蛋白質複合体のサブユニット(SecYやFoa)やいくつかの細胞質蛋白質(σ32やλCIIなど)の分解に関わる。FtsHはN末端の二カ所の膜貫通領域(TM)で細胞質膜に結合している。我々は、FtsHの膜蛋白質分解機構について詳細な解析を行い、FtsHが基質膜タンパク質(の非細胞質領域)を細胞質に引きずり出しつつprocessiveに分解するというdislocation modelを提唱した。FtsHのN末端にある膜結合領域は、自身の多量体化に重要である。この領域の解析から、FtsHの細胞質酵素領域は、多量体化によりはじめて可溶性蛋白質を分解し得るようになるが、膜蛋白質の分解にはさらに膜結合領域(配列特異性は低い)の存在が必要であることがを示した。in vitroでの解析から、多量体化はATPase活性の発現に必要である事が示唆された。また、二つのヒスチジン残基と共にFtsHの亜鉛結合に関わる残基の同定を行い、グルタミン酸479がその役割を果たすことを明らかにした。これまでに、分解開始に必要な基質側の要因として、細胞質に約20残基以上の長さの領域を(幾つかの膜蛋白質においてN末端に)持つことが必要であり、その配列特異性は低いこと、FtsHはそのような領域から分解を開始するのであろうことを示唆した。さらに、基質側の要因の解析を進め、C末端細胞質領域からも、それが十分な長さを持つときに分解を開始できることを明らかにした。FtsHのC末端7残基が自己切断を受けることを見出し、その切断部位アミノ酸配列の系統的変異解析から、FtsHが疎水性及び塩基性アミノ酸残基の直後を好んで切断することを示した。
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