研究概要 |
水晶体上皮細胞は、高密度培養系では、外来性の信号なしに生存可能であるが、外来性の信号が無い場合増殖もしなければ水晶体繊維への分化も始めない(Ishizaki et al.J.Cell Biol.121:899-908,1993)。塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を与えると上皮細胞は増殖を開始するがある一定期間を経ると分裂を終了し水晶体繊維への分化を開始する。水晶体上皮細胞が分裂を終了し分化を開始する機構は現在のところ全く不明である。本研究では、水晶体上皮細胞の分裂回数には上限があり、それに到達するともはや増殖刺激が存在しても分裂はせず水晶体繊維への最終分化を開始するのではないか、さらにこの分裂回数の上限の決定にはサイクリン依存性キナーゼ(Cdk)阻害因子が関与しているのではないか、という作業仮説を立てこれを検証することを目的としている。 水晶体上皮細胞をbFGFで処理すると、初めは盛んに増殖するがやがて増殖を停止し水晶体繊維への分化を開始すること、この時に核内にCdk阻害因子の一つであるp27/Kiplが蓄積してくることが明らかになった。一方、水晶体上皮細胞をインスリン様増殖因子-1(IGF-1)で処理すると初めは盛んに増殖するが一定期間を経ると分裂を終了してしまうこと、また増殖に伴って核内にp27/Kiplが蓄積してくることが明らかになったが、この場合には、増殖を停止しても水晶体繊維への分化開始は全く認められなかった。以上より水晶体上皮細胞の分裂回数には上限があることが示唆されたが、予想に反して分裂を停止した場合直ちに水晶体繊維への分化が開始されるのでは無いことが明らかになった。現在p27/Kiplが蓄積してくる機構及び水晶体繊維への分化開始機構を検討中である。
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